「ちょ、眼鏡」
「和賀さん、化粧落としてもあんまり変わらないよね。なんだか安心するよ。俺かなり、気に入っちゃったなぁ」
突然奪われた眼鏡にうろたえているうちに、爆弾発言をされた気がする。
「あの」
「じゃあ、また会社で」
眼鏡が戻されてクリアになった視界では、彼が出て行った後の扉が閉まるところだった。
「素早いな……」
なにかが喉が詰まった感覚がある。
昨日から妙に話過ぎたから、喉を傷めたんじゃないかしら。
時計を見ると、そろそろ六時半になろうかというところ。
片づけをして会社に行く準備をしようか。
洗い物を終えてから、化粧をするために鏡のあるユニットバスに入る。
いつもなら前日のうちにシャワーを終えているので濡れていない床面が濡れていて、ストッキング越しに不快な感覚が襲ってくる。
「……調子狂う」
他人と関わるとこれだから嫌。
タオルを出して床面を拭いて、まだ曇りの残るガラス面を覗き込む。
そこにいるのは、野暮ったい顔をした二十七歳の独身女。
……さっきの言葉、額面通りに受け止めそうになったけど、よく考えれば男を家に上げておいて、よくすっぴんでいられるなってことなのかもしれない。
余計なお世話ですよ、なんて思いながら、ファンデーションを塗りつけていった。



