「んっ」


塞がれる唇。呼吸の仕方がわからなくて息を止めていたら、ようやく離れて息が吐きだせる。
だけどまたすぐ、彼の唇が近づいてくる。くっついては離れて、私の酸素を奪って行くみたいな。

変なの。ドキドキしているのに、心臓落ち着かないはずなのに、トロンとした気持ちになっていく。
このまま目を閉じて、彼にされるがままを受け入れてみようかななんて思えるほどに。


「かわいいなぁ」


あなたにそう言ってもらえるなら、私にも少しは価値があるんじゃないかしら。
そんな風に思えて、少しだけ自信につながっていくみたい。


「香澄、好きだよ」


甘い声。髪をなでる手。体を触る手も、優しくて、私はそっとベッドに倒される。


「な、永屋さん」

「名前で呼んでよ」


そこでそれ聞いちゃう?
雰囲気ぶち壊してしまうんですが。


「名前、……なんでしたっけ」


永屋さんの動きが止まる。
だよね、当たり前だよね。でも私たち同期ってわけじゃないし、普段苗字で呼んでたら知らないのも当たり前だと思いませんか?


「……香澄、ひどい」

「す、すみませんー!」

「メールのあて名とかで見るだろ?」


いつも貰ったやつに返信で出してるからあんまり気にしたことなかったんですよ、すみません。

上から私を見下ろす彼が、情けない顔をしたまま私の肩のあたりに突っ伏した。