「……あはっ」
「お、今日は怒らないんだ」
「怒りませんよ。嬉しいですから」
素直に言ってみたら、今度はなぜかたじろがれた。
「なんで今度は照れるんですか」
こっちもつられるからやめてほしいよ。
「や、コミュ障とか言ってるわりにたまにすごいこと言うよね」
「…………」
「嬉しいならもう一度していい?」
返事の代わりに目をつぶる。
アパートの階段の踊り場。
そんなところでキスをするとか、想像したこともなかった。
注がれるまなざしが色っぽくて、ゆっくり触れてくる唇は温かくて、心までとろけてしまいそうになる。
崩れ落ちそうな体を支えたくて、彼の方へと手を伸ばす。
彼は唇を重ねたまま、私の手に応えるように、抱きしめ返してくれた。
胸に広がるのは安堵感。
私は拒絶されない、怒らせてもいない。大切に慈しまれている。
誰かに好きになってもらえるのって、こんなに幸せなことだったんだ。



