部屋から出て、階段を少し降りた踊り場のところで永屋さんは立ち止った。
桟に寄りかかるようにして、私を見る。
「……参ったな。もしかして和賀さん知ってた?」
「え?」
「歴史の本って言ってたじゃん」
そこでそれを思い出しますか。嫌になるほどいい記憶力だな。
「実は……前に泊まらせていただいたときに、本棚を見てしまって」
「うん」
「永屋さんは、三浦さんが好きだったのかと思いました」
「だから、三浦がどうこう言ってたの?」
「だって……三浦さんとならお似合いだし。私コミュ障だし、永屋さんみたいな人気者恐れ多いっていうか」
いじいじしながら言ったら、あきれたように笑って、彼は私の顎を持ち上げた。
「俺なんかより、君のほうがよっぽどレアじゃん」
「レアってなんですか」
「すぐ逃げるし。かといえば爆弾みたいな破壊力のある言動で人のこと突き動かすし。今日の梶さんだって、前に君が言ったことで決心ついたんじゃないかと思うよ。なんかあれだよね。ゲームとかのレアモンスター?」
メタル何とかいうやつか。
「だから俺は君を捕まえたくて仕方ない」
「え?」
「会うたび惚れ直すとかあんまりないよね」
恐れ多いことを言われたな、と思っているうちに重なる唇。
いきなりすぎて、目をつぶるのも忘れ、驚きのあまり突き飛ばしてしまう。
「ふわあっ」
「あはは。目くらい閉じてよ」
まったく色気のない反応にも、永屋さんは動じもしない。
それどころか笑って、「奪っちゃった」なんて軽く笑って見せるから、こっちも力が抜けてしまう。



