……永屋さんは読書好きではなかったのか。もしかして並べてあっただけ?
三浦さんもそれを見て、マグカップを握った手を震わせている。
こぼされても困るので、私はこっそりそれを受け取ってテーブルに置いた。
「なに、それ」
「……離れていても、いつか見つけてくれると思ってたんだ」
「私が歴史に興味ないの、知ってるでしょ?」
「それにしたって、まさか一回も開かないとは思わないだろう?」
思いませんよね。
活字中毒に近い私から言わせればありえませんわ。
「でももういい。今日はこれを、捨てに来たんだ」
本から抜き出した写真と、一番分厚い本の中に挟まれた封筒をまとめて、一気に破った。
私も、三浦さんも思わず息をのむ。
はらり、はらり、破片となって落ちていく二人の思い出を、私はただ見つめることしかできなかった。
そして梶さんは張りつめていた息を一気に吐きだすと、三浦さんの肩を掴んで言った。
「過去は捨てる。だから君も忘れてほしい。改めて、俺は君に片思いをするから。……振り向いて、もらえるまで」
恰好良すぎて、こっちが赤面してしまう。
三浦さんは、目を泳がせて、唇を噛みしめて、そしてついに崩れ落ちた。
「……なんなのよぉ」
「別にいいだろ。君が他の男に片思いしているなら、俺が君に片思いしても。まだ勝負はついてない」
肩をポンとたたかれたかと思ったらそれは永屋さんで。
「しばらくふたりにしてやろう」と言われて、私は頷いて静かに部屋を出る。
入れたコーヒーはいずれ冷めてしまうだろう。
でも温めなおせばいい。
それを選択するか、新しいコーヒーを求めるかは人それぞれ。
三浦さんはどちらだろう。
私は断然梶さんを応援するけど、でも田中さんも悪い人ではないんだよねぇ。



