「知らないわ。私だって別に嫌いになれるもんならあんな男、嫌いになりたい」
「不毛だな。梶さんにすればいいじゃん。戻ってきたばかりだし、しばらくは転勤もないだろ」
「そんなのわからないでしょ。終わった人とやり直すなんてまっぴらごめんよ」
「その男前さは要らないだろう」
女から見れば、三浦さんはとっても恰好よくて素敵なんだけれど、永屋さんは若干辟易していそうだ。
男の人から見ると、強すぎる女の人って感じなのかな。
「梶さんとはアパートの近くのコンビニで待ち合わせしてるから」
「ああ。はいはい」
電車に乗るところで、思い出したように三浦さんが言った。
そこではたと、目的地が永屋さんの家だったことを思い出す。
「……ところで、なんで永屋さんの部屋に行くんですか?」
私の問いかけに顔を見合わせる二人。
「やだ、永屋くん、説明してないの?」
「三浦がしてるもんだと思ってた」
「どっちでもいいから説明してくださいよ」
私が促すと、三浦さんのほうが口を開いた。
「あの部屋はもともと、私が借りてたの。梶さんと同棲するにあたって、少し広めの部屋に住みたかったから。福利厚生面でうちの会社のほうがいいから、私の名義で借りたのよ」
「えっ? そうなんですか」
「会社も近いし、広いし、風呂もトイレも別だし、いい物件だろ? 二年位前に、もうちょっと会社の近くに越したいって言ったら三浦が譲ってくれたんだよ。家財道具もいらないものはそのままくれるって言って」
「梶さんと別れてしばらくして……だったのよ。思い出の詰まった部屋なんて引き払いたいし。でも家具とか捨てるの大変じゃない。もらってくれるなら楽だなと思って」



