そもそも、付き合うっていうことがどういうことなのか、私にはわからない。
一緒にご飯食べたり、出かけたりは友達だってするよね。
加えて恋人ならいちゃいちゃしたりするものだってくらいはわかるけど、それって会社ではしないでしょ?
もしかしたらするのかもしれないけど、昨日までの私がすぐ変われるわけでもない。
ここは一発、はっきり言ったほうが今後のためだ。
休憩しよ、と永屋さんに呼び出され向かった先は資料室。
一体何の休憩をする気だ。
「ルールを決めましょう」
「ルールって?」
私が真顔でそう言うと、永屋さんは本気で疑問そうに小首をかしげた。
「会社でベタベタされるの迷惑です」
「ダメ? 仕事はちゃんとしてるじゃん」
「みんながみんなあなたのようにすぐに切り替えられると思わないでください。永屋さんにからかわれるとしばらく頭の動きが悪くなるので困ります」
「そうかぁ」
あからさまにシュンとする彼。
拗ねるなよ、私がいじめているみたいじゃないの。
「じゃあ、職場じゃなきゃいいでしょ。デートしよう」
「平日は嫌です。金曜ならまあ」
「決まり。金曜、電話するから」
永屋さんは尽くす男だったのだな。
「和賀さん」
「なんでしょう?」
「金曜、泊まって行きなよ」
「はっ?」
戻り掛けの問いかけに、頭の中で何かが爆発した。
「考えといてねー」
楽しそうに先を行く永屋さん。待ってよ。泊まるって、さすがに今度こそ何もなく朝は迎えないよね。
「……だから、心の準備ってもんがですね」
勘弁してください。私、コミュ障なんですから。



