「大丈夫ですか、お客さん」

「平気ですよ。ありがとうございました」


ぼそぼそと会話する声が遠くに聞こえる。
笑い声、なんだか安心するような。これは誰の声だっけ。

ふわふわ揺れて気持ちいい。ふわりと当たる冷たい風が心地いい……って、風?

ふんわりたゆたっていた夢の世界から、一本釣りでもされたかのように一気に現実に引き戻される。
目を開けるとすぐ上に永屋さんの顔が見えた。

え、なにこれなにこれ。
しかも私浮いて……って、私、永屋さんにお姫様抱っこされてる!



「あ、起きた?」


いつもとは違う角度からふわりと笑われて、図らずも胸がドキリとする。


「私、寝ちゃいました?」

「はは、一緒だね。俺もさっき起きたところ」


でもずいぶん元気になったご様子で……足元もふらついてないし。


「すみません、おろしてください」

「いいよ、寝てて」

「よくない! っていうかタクシーは」

「帰したけど」

「そのまま私の家まで行くつもりだったのに!」

「え? 帰るの? なんで?」


焦る私に対し、永屋さんはキョトンと小首をかしげる。

なんでって……。
当り前じゃない? 付き合ってもいない男女は同じ部屋には帰らないでしょう。
いや過去二回ほど泊まったこともあるけどあれは若干の不可抗力だったし。

けれど永屋さんは本気で疑問に思っているようだ。