「ちょ、ストップ。この子返してください」
左腕をつかんで、ふたりの間から私を引っ張り出してくれたのは、息を切らして追いかけてきた永屋さんだ。
「よかった。追いついた」
ほっとしたように私を見て安堵する彼の顔にドキッとする。
いやいや、よくはないです。どちらかといえば状況はますます混乱してきた気がしますよ。
永屋さんの登場に、再び梶さんがたじろぐ。
三浦さんも、私の時より気まずそうな顔をした。ちょっと待ってその態度の違いは何。
「……永屋くん」
「梶さん、お世話になっております。とりあえず、場所かえませんか」
永家さんが手で視線を後ろに誘導する。
いつの間にか私たちを中心に円を描くようにギャラリーが集まっているじゃないか。
「あ……うん」
「三浦も」
「……私は話すことなんてない」
膨れたように目を背ける三浦さんに、梶さんが再びいきり立った。
「俺はあるんだって」
「あのねぇ」
再び喧嘩が勃発しそうなふたりに、永屋さんが凍り付くような冷え冷えとした笑顔を見せた。
「会社の前で騒ぐなって言ってるんですよ。ふたりともいい年してそんなことわからないわけじゃないでしょう」
久々に見た、笑顔で怒る永屋さん。怖い。
「……わ、わかったわよ」
ようやく三浦さんが頷いて、私たちは四人で場所を移すことになる。



