そのまま今日は逃げようって思っていたのに、エントランスでは事件が勃発中だった。
「だから、食事くらい付き合ってくれたっていいだろ?」
「もう帰ってってば。今更私を振り回さないでよ」
梶さんと三浦さんが喧嘩をしている。
通りすがる人がみんな、何事かと立ち止まっている。
三浦さんは社内では有名人だから、もちろん知っている人がたくさん通るわけで、普段のクールな様子の彼女とは違う姿に二度見する人も少なくない。
私もその一人で、思わず立ち止まって凝視してしまったら、三浦さんと目が合ってしまった。
「和賀さん!」
うわあ、巻き込まないで。
三浦さんは私を引っ張ると彼との間に盾のように入れた。
「……うっ」
途端にやりずらそうに口ごもる梶さん。
そりゃそうだわ。仕事相手を真ん中に入れられて、興奮し続けられる人も珍しいと思うのよ。
「わ、和賀さんは今関係ない」
「ですよね。私もそう思います」
だから解放してくださいよ。とちらりと三浦さんを見たけれど、珍しくテンパっている彼女は私の方など全く見ていない。
「うるさいわね。今のあんたの仕事相手は和賀さんでしょ。私とはもう関係ない。今後の話は彼女として」
「今仕事の話なんてしてないだろ?」
三浦さんがあり得ないほど暴走している。普段のあの冷静さはどこに行ったのよ。
私を間に挟んでいながらお互いしか見えてないとか迷惑だから勘弁して。



