「すみません。立ち聞きする気じゃなくて。……あの、下で梶さんに三浦さんいるかって聞かれて。探してただけなんです」
「いないって言って」
「でも」
「外出してるでも何でもいいから。お願い」
「でも、あの」
すごくいたたまれない様子で、エントランスで佇んでいた彼を思い出す。
まだ数回しか会っていないけど、いつも朗らかで気を使ってくれる人だった。
人の会社の前で待つって、結構神経を使うことだ。
ましてあの、縋るように私を見ていたあの顔を思い出したら……
「梶さん、勇気振り絞って来たみたいでした」
私の中から、言葉が生まれる。
三浦さんの言うとおりにするのは簡単だけど、あの顔を見てしまったからには、やっぱりすぐに頷くわけにはいかない。
「断るにしても、私の口からききたいわけじゃないと思います。自分で言ってください」
思いがけずはっきりと言えてしまって、自分でも驚いた。
三浦さんはむっとした顔をしたけれど、永屋さんにも「和賀さんが正しい」と背中を押されて渋々歩き出した。
残されたのは私と永屋さん。
こうして顔合わせるのは久しぶりで嬉しいはずなのに、なんか思いがけずふたりになってしまったから緊張してしまう。
手汗でベタベタだよ。これはやっぱり明日出直したい。
「えっと、ではお疲れ様で……」
気まずいから逃げようかなとそろそろと足を滑らせたら、首根っこをつかまれてしまった。



