結局、タイミングを逃してしまった私は再び勇気を奮い起こすことができず、今日は帰ることにした。
また明日、リベンジしよう、頑張ります。

少し残業をしたので時刻は十九時。
ビルのエントランスを駆け抜けていこうとしたとき、意外な人物と出くわした。

すっきりと清潔感のある髪、高い身長、風格のある、だけど無骨というよりはオシャレ感漂うその人は……。


「……梶さん?」

「えっ、あ、和賀さん。これは……」


梶さんも仕事終わりなのか、おしゃれなシルエットのスーツを着こなして、カバンを持っていた。たぶんブランドものなんだろうけど、私は詳しくないので一瞥しただけじゃわからないや。


「どうかしました?」

「いや……変なところ見られたな。実は、ちょっと人を待っていて」

「あ、そうなんですか。じゃあ失礼します」


早々に話をまとめて帰ろうとしたら、「あ、待って」と呼び止められる。


「はい?」


見上げると、梶さんは眼を泳がせ何度もためらいながら、ものすごく聞き取りづらい声をだした。


「あの、三浦さんって、いるかな」

「三浦って……うちの、三浦葉菜のことですか? まだいたはずですけど呼んできましょうか」

「うん。いや、あの、約束してるってわけじゃないんだけど。さっき電話したんだけどね。切られてしまって」

「えっと。……見てきます」


面倒だなって思ったけれど、お客様だしね。
でも、三浦さんと梶さんって、プライベートで何かあるのかな。

エレベータを降りて、システム開発部を覗くも三浦さんの姿はない。
でも鞄はあるし、帰ってはいないようだから、と給湯室や休憩スペースを見て回った。
と、廊下の端まで来て、人の声が耳に入ってきた。前に、私と永屋さんが話したあの場所だ。