「私はいいよ。永屋さんにあげてこれば? 仲直りのきっかけくらいにはなるんじゃない?」


勇気をくれるチョコレートは永屋さんの優しさの欠片だ。
私はひとつを口に放り込んで、頷いた。


「うん。私、永屋さんにお礼を言ってきます!」

「がんばれ、香澄ちゃん」


背中に美波ちゃんの声を聞きながら、私は走る。
口の中で溶けたチョコレート。その甘さの余韻が残るうちに、伝えなきゃ。

エレベータを待つのももどかしく、非常階段を上って上の階へと上がる。
営業一課に駆け込むと、私の勢いを消してしまうように閑散としていた。


「あれ、和賀さんじゃん。永屋は外出中だよ?」


笑顔でそう答えてくれる山海さんに、あからさまにテンションを落としてしまった私。
彼は心配そうに駆け寄ってくる。


「大丈夫?」

「あ、いえ、なんでも。それより、美波ちゃんに聞きました。おめでとうございます」

「あ、聞いた? いや、永屋や和賀さんのおかげだよ。彼女、和賀さんのこと心配しててさ。相談に乗っているうちにね。いやホント。ダシみたいに使って申し訳ない」


そういうことか。
山海さんも正直者だな。言わなきゃばれないのに。
でも、そういうところがこの人のいいところか。


「美波ちゃんのこと、大事にしてあげてくださいね」

「もちろん」


なんとなく幸せオーラにあてられて、肩を落として非常階段に向かう。
さっきは勢いよく上れたのに、今度はなんだか力が入らないや。


「……神様が落ち着けって言ってるのかな」


そういって深呼吸して、もらったチョコレートをひとつ口に放り込む。

甘くて、なのにビターで、なんでかちょっと泣きたくなった。