「それにね、見方を変えてみたら山海さんってすごく優しくていい人だなぁって。しつこい合コンへの誘いだって、お母さんのためだったし、やたらに話しかけてくれるのも、きっと私が孤立しないように気を使ってくれてたんだろうし。そう思ったらなんかドキドキしてきちゃって」


瞳をとろかせて遠くを見つめる美波ちゃん。
うん、それ半分以上勘違いと思い込みで出来上がっているけど大丈夫?


「それに結婚までいくかどうかもまだわかんないしね。ただ、……どう転ぶかなんて分からないけど、もし結婚するほど好きになったとしたら、彼のお母さんなんだから、私も好きになれるかもしれないかなって思って」

「美波ちゃん」

「理想と現実は違うってことだよね。だってさ。じゃあ、同居が嫌だからっていうだけで、山海さんを嫌いになれるかって言ったらなれないでしょう? 結局好きになったらどうしようもないんだよ」


美波ちゃんの発言には心配になるところもあるけど、ひとつだけ、本当の真実がある。

――好きになったら、どうしようもない。

たぶん好きになったら、同居とかいろいろな障害も乗り越えていこうと思えるものなんだろう。


じゃあ、私も考えたって仕方ないんじゃない?

だってもう、好きになっちゃったんだもん。
専業主婦になれるかなれないかよりも、うまく話ができるかよりも、私と彼が釣り合うかどうかよりも、彼と話したいって気持ちのほうがずっと大切だ。


「ありがとう、美波ちゃん」


頭を下げたら、美波ちゃんはきょとんとして私を見る。


「え? なに? どうしちゃったの?」

「これ、一緒に食べよう?」


手のひらに握りしめていたチョコレートを一つ渡そうとしたら、手で制されてしまった。