「神谷さん。トレンドハウスの件だけど」
「あー、もう少し待って。まだ締め切りじゃないよね」
「できたところまで見せてもらえないかな」
「えー。……わかりました、はい」
さらりと目を通す。
今までのプログラムは、上から下まで流れや分岐に従ってコードを書いていたわけだけど、部品化作業をすると、検索部分には検索部品を呼び出して使うことができるようになる。
「ここ、データベースの読み込みのところは、一つ部品作っちゃえば何度も書かなくてもいいです」
「でもさ……」
「直してもらっていいですか?」
「……わかりました」
神谷さんが顔を赤くしてうつむいてしまう。
違うんだよ。これってミスってわけじゃないし、そんな顔しないでほしい。
実際、開発をメインでやっている人は、集中し過ぎて全体が見えにくくなるものなのだ。
だから、一歩離れた人間が見ることで、早目に見落としたところを指摘できると思うんだけど。
私がやると、反感しか買わない。
もっと、傷つけない言い方ができたらいいのに。
「あの、神谷さん」
「わかったってば、直します!」
声掛けを遮断するように言われて、私もそれ以上何も言えなくなってしまった。
しょげた気分のまま自席に戻ると、チョコレートが一個置いてあった。
大袋に入っているようなシンプルな個包装のチョコレートだ。
「あれ? ……誰?」
「ああ、さっき岩田さんがなんかしてたよ」
「美波ちゃんが?」
励ましてくれたつもりなのかな。
美波ちゃんも忙しいのに、気遣いってくれてるんだ。
早速口に放り込んでみる。
甘くて、ちょっと苦いチョコレート。
優しいけれど仕事には厳しい永屋さんを思い出させられて、ちょっと切なくなった。



