落ち込んだまま席に戻った直後、廊下から私を呼ぶ永屋さんの声がした。
「和賀さん、いる?」
すぐに声が出せなくて顔は見せずに手だけを上げる。
永屋さんは特に遠慮もなく室内に入ってきたらしく、気がつけば隣に立っていた。
「今日、トレンドハウス、打ち合わせだったんでしょ。どうなった?」
体をかがめて覗き込んでくるので、顔を隠しきれない。
永屋さんが息をのんだのは、私がちょっと涙目になっていたからだろう。
「どうした?」
「な、なんでもありません。大丈夫です」
「これはなに?」
さっきまとめた資料を印刷したもので、自分の控えの分だ。
永屋さんが脇からすっと奪っていく。
「へぇ。システムの仕事の進め方ってこんななんだ。これいいねぇ、わかりやすいじゃん」
「ちょ、返してくださいよ」
人から嫌がられたようなもの、見ないでほしい。
「これ貸してよ。参考にちょっとコピーさせて」
するりと持っていかれたから、あわてて追いかける。
「だめですよ、待って」
すると永屋さんはコピー機の場所も通り越してなぜか廊下にまで出た。
「永屋さんってば、返してください」
彼は早足でどんどん進む。どこまでいこうというのか、休憩スペースとは逆側の、どちらかといえば人気のないほうの角まで来て、永屋さんはようやく資料を返してくれた。



