ひとりひとりのデスクにパーティションがついている閉鎖的なオフィスで、目の前のキーボードとだけ対話する。
集中していると思われれば、用がない限り周りからは話かけられないのが、この職場のいいところだ。


私はトレードマークでもある眼鏡を直して、前のめりになる。
こうすると隣のデスクの人のことも見えにくくなってより集中できる。

ああ、ひとりに近い環境とは最高だ。

そんな幸せな時間を強制終了したのは、ちょっと尖った印象がある高めの声だった。


「和賀さん、ちょっとちょっと」


ブースの向こうから、私の上司である三浦葉菜(みうら はな)さんが手招きしている。

ああ、しばらくお別れよ、ディスプレイ。
自分のパソコンにロックをかけて、私は席を立つ。

会議スペースに行くまでに、軽く立ちくらみ。
だけど倒れるほどのものじゃないから数秒だけ立ち止まって落ち着くのを待つ。


と、近くのデスクの先輩社員と目が合った。

うわあ、怪訝そうな顔。
すみません。何でもないんです。


愛想笑いになっているのかわからないけど、とりあえず口の端だけは曲げて頭を下げ、会議スペースへと向かった。