━━━その日の夜


「ただいま。」


「おかえりなさい。
テスト、どうだったの?」


塾のテストの日、お母さんは必ず私を出迎える。
別に隠したり逃げたりしないのに。


「はい。」


私は靴も脱がずにカバンから答案用紙を取り出した。


「あら、満点じゃない。
英語で満点は初めてじゃない?

さ、ご飯にしましょう。」


………テストの点数さえよければ、お母さんの機嫌もいい。
ハードルは満点と高いけど、その分機嫌もかなりいいから。


「自分でやるよ?」


「いいのよ、座ってて。」


いつもならご飯を温め直すことすらしてくれないのに、今日はお母さんが全部してくれる。

満点さえとれば、お母さんは昔の優しいお母さんに戻るんだ。


「………あら?
桜子、今日どこで勉強していたの?
タバコの匂いが…」


え?うそ………
………あんな臭かったから染み付いちゃったんだ…


「………ファミレス。
ご飯食べてそのままやってたの。
喫煙席の近くだったからかな。」


「そう。
全席禁煙ならいいのにね。」


………嘘ついちゃった。
でも、本当のことは決して言えない。

暴走族に勉強を教えてもらった、なんてね。