……でも。

私はそれをうまく言葉にできなかった。


遥が好きなのが彼ではなくて他の男の子だったら、きっと私はもっともっとたくさんの言葉をかけてあげられるのに。

今はどうしても、うまく声が出せない。


「……ごめん。私、そろそろ部活、行かないと」


そんなことを言えば白けてしまうのは分かっていたけれど、これ以上ここに平気な顔でいられる気がしなかった。


案の定、香奈が眉根をよせて唇を尖らせて「ええ?」と不満そうに言った。

菜々美も眉をあげて私を見たけれど、遥だけは「あ、そうだよね、付き合わせてごめん」と言った。

本当にいい子だな。


「教室、戻ろっか」

「いいよ、一人で戻るから。遥たちはここにいて。ごめんね、話の途中だったのに」

「ううん、あたしこそごめんね」

「じゃ、行くね」


遥がにっこりと笑って手を振ってくれた。

それに手を振り返し、香奈と菜々美にも手を振る。

菜々美は微笑んで軽く手を挙げて答えてくれたけれど、香奈は無表情だった。

黙って私をじっと見つめてくる。

綺麗にマスカラをつけて薄くアイシャドーも塗られた、大きな瞳。


居心地が悪くて、私は逃げるように階段へ向かった。


香奈に嫌われたかな、と不安になった。