「……何かあったの?」


なるべく何気なく訊こう、と決心していたのに、いかにも何かありそうな訊き方になってしまった。


彼方くんがゆっくりと顔をこちらに向ける。

でも、なにも言わない。

どうすればいいか分からなくて黙っていたら、彼がふいに口を開いた。


「遠子ちゃんはさ、スランプとか、ある?」


唐突な問いに意表を突かれて「え」と声をあげると、彼方くんがその長い指で描きかけの絵を指差した。


「どうしてもうまく描けない、思い通りにいかない、ってこと、ある?」


ああ、そういうことか、と思いながら私は深く頷いた。


「うん、あるよ。思ったように描けないとか、描きたいイメージがうまく固まらなくて描けないとか」

「そっか。やっぱり絵でもあるんだな」

「うん。それに、描きたいものが見つからない、っていうこともあったし」


今はないけど。

いつだって彼方くんのことが描きたいから。


「そっか……」


彼方くんはなにかを考え込むようにじっと私の絵を見て、それから言葉を続けた。


「そういうときは、どうしてる? どうしても思うようにいかないとき」


真剣な声音だった。

だから私も真剣に考えて、真剣に答える。


「とにかく描く、かな」