夏休みの初めのあの日、たまたま彼方くんが美術室を覗いて、私の絵を見せて以来、彼は毎日ここに顔を出すようになっていた。


陸上部の練習が午前の日は、それが終わってから。

午後の日は、練習が始まる一時間ほど前に。

ちょうど十二時から二時の間に彼はやってくる。

たまに、午後の部活が終わった後にもちらりと覗いていくことがあって、おかげで私は毎日、昼前から夕方まで美術室にこもりつづけることになった。


部活がない日も彼は自主練として走りに来るので、土日以外は毎日彼と顔を合わせていることになる。


「遠子ちゃん、ほんと毎日がんばってんな。偉いよ、尊敬する」


屈託のない顔でそんなことを言われると、後ろめたくて何も答えられなくなってしまう。

今の私は、絵を描くためというよりは、彼方くんに会うために毎日ここに来ているのだ。


「あ、もうすぐ部活始まる。じゃ、また後で」


彼方くんはそういって、軽やかな足取りでグラウンドの真ん中へと走っていった。


始めにウォーミングアップで一時間ほど走ったり軽く跳んだりして、それから本格的に棒高跳びの練習に入る。

毎日見ているからすっかり覚えてしまった。


二十人ほどの部員が固まってトラックを走っている。

でも、彼方くんだけ浮き彫りにされているように、私の目にははっきりと浮かび上がって見えた。