美術室に入ると、油絵の具の独特のにおいが鼻をついた。


誰だろう、と思って見回してみると、やっぱり深川先輩だった。

私と彼以外の部員が油絵を描いているのは見たことがない。


この美術部でまともに活動している数少ない部員の中で、深川先輩だけは本気で美大を目指しているらしかった。

そして、きっと行けるだろうな、と思うほど彼は上手い。

いつもは水彩画を描いているけれど、たまに思いついたように油をやることもある。


もうすぐ夏休みで、それが明けたらすぐに文化祭がある。

活動している美術部員は一応作品を展示することになっているので、それに向けて先輩も制作を始めたのだろう。


私も夏休みを使って一作、できれば二作仕上げたいなと思っていた。


いつもの席に陣取り、窓を開ける。

七月になってから一気に暑さが増して、教室では冷房がつけられているけれど、残念ながら美術室にはエアコン自体が設置されていない。

だから、窓を開けて、年季の入った扇風機を回すくらいしか、暑さ対策がないのだ。


でも、旧館は午後になると本館の陰に入るし、グラウンドに面していて風の通りも良いので、なんとかしのげている。