うちは自営業で、あまりお金に余裕があるとは言えなくて、大学の学費を簡単に払えるような状況ではない。

でも、お父さんもお母さんも、私には良い大学に行って安定した職業についてほしいと思っているらしい。


そう考えると、国公立しか選択肢はないと思う。


もともと賢くもなく要領も悪い私が合格するためには、人一倍勉強しないといけないだろう。


だから、高校三年間は勉強に手を抜かない、と決めていた。


「遠子はすごいなあ、いっつも成績いいもんね。数学は苦手とか言ってたのに、ちゃんと勉強してαになって。ほんと偉い、尊敬する」


遥はそんな嬉しいことを言ってくれる。

たしかに彼女はそれほど勉強は得意ではないようで、国語以外は平均点を上回ったことがないらしい。


でも、いいんだよ、遥は、と私は心の中でつぶやく。


だって遥は、勉強なんかできなくたって、いつも綺麗できらきらして、心が優しくて温かいから。

成績の良さなんか、遥には不要だ。


「あっ、待って待って!」


名簿を見ていた遥が、突然、興奮したように声をあげた。

何事かと思って目をあげると、彼女は名簿の一点を指差している。


「αクラスって、彼方くんがいるんだ!」


白くて細いその指が差しているのは、名簿の上の方に載っている『羽鳥彼方』という名前。


それを見た瞬間、動揺で胸が高鳴った。