私は美術室に行った。


描きかけのキャンバスを取り出してイーゼルに立てる。


文化祭用の絵ではない。

展示作品はもう描き終えていた。


これは、展示するつもりはない、一生誰にも見せるつもりはない絵だった。


『描きたいものを描けよ』


夏休みの終わりが近づいてきたころ、私が描いていた絵を覗きこんだ深川先輩から、突然そう言われたのだ。


『描きたいものを描いてないから、お前の絵には力がないんだよ』


そう言われてしまって、悔しかったのかもしれない。


だから私は、これが最初で最後だから、誰にも見せずに自分だけに秘めておくから、と自分を納得させて、

この絵を描いてしまったのだ。


真っ青な空を舞う彼方くんの絵。

顔ははっきりとは描いていないけれど、これは紛れもなく彼方くんだった。


ほとんど完成している。

その前に座り、私はパレットに白い絵の具を大量に絞り出した。


そして、細筆でも平筆でもなく、刷毛を手に取る。


溶き油を少しだけ加えて、白絵の具を刷毛で混ぜて、パレットの一番上、青空の部分に太い一の字を描いた。


塗りつぶしてしまうおう、と思ったのだ。

取り返しがつかなくなる前に。


ぜんぶ、ぜんぶ、白く染めてしまおう。

この想いも、一緒に。