タクシー乗り場ではタクシーが行列を作っていて、すぐに乗れた。
私ひとりが車内に放り込まれるのかと思ったら、神宮寺くんも乗り込んできたので驚いた。


「だってあなた、タクシー降りたあと部屋までたどり着けないでしょ。歩けるんですか?」


━━━━━その通り。
申し訳ないけど、付き添ってもらうことにした。


走り出したタクシーの車内で、私の頭の中ではあらぬ妄想が繰り広げられていた。

この流れって、ドラマとか漫画でよく見るあの展開!?
酔った勢いで……みたいな。

朝起きたら隣に神宮寺くんが寝てるパターンだったりして!


ひとりでもんどりうっていると、隣から低い声が聞こえた。


「24日は、飲みすぎないで下さいね」

「………………ん?」

「柏木さんとデートでしょ」

「……え!なんで知って……」

「カマかけました。約束してるんですね」


フッと小馬鹿にしたような笑みを浮かべられて、イラッとしたけどお世話になっているので文句は言えない。

むしろ、彼の真意が見えなくてもどかしい。


「24日は…………迷ってる。行くかどうか」

「なんで?」

「ちょっと、ね」


言葉を濁すと、彼はそれ以上追求してくることはなかった。

ねぇ、やっぱり興味ない?
私がどうして迷ってるのか、聞かなくていいの?


合うことのない視線。
私が見つめていることなんて、彼は気づいていないに違いない。


━━━━━ねぇ、好き。


さすがにそれは、言えなかった。