私は大きく息を吸って、吐く。
そして真正面から彼の瞳を見つめた。
逃げそうな気持ちを、
竦みそうな体を、
ぐっと押さえて口を開く。
「陸斗、久しぶり。」
「おー。」
そう呟けば、慣れた様に彼、三上陸斗(みかみ りくと)は私の頭を撫でた。
ぐしゃり、と視界が髪の毛で覆われる。
この行動が陸斗のクセ。
普通の人よりちょっと粗雑で、そしてぐしゃぐしゃの髪を直してくれることは絶対無い。
彼の手が離れて、私が自分で自分の髪に手櫛をしていると、
元に戻った開けた視界の中で、陸斗は口角を上げながら口を開いた。
「さっき、あそこのコスプレ喫茶で白雪姫やってたろ?お前。」
「知ってたの?」
「そうそう。暁里探して各クラス覗いてたんだよねー。」
みぃが言っていた男、こいつか。
私の頭の中で話が繋がる。
(そりゃあのミーハー女がぶりっ子キャラに突入するわけだ)
「どうして、来たの。」
「んー、暁里に会いに?」
「嘘。」
「嘘じゃねぇよ。オレが会いにきたら迷惑?」
迷惑。二度と来るな。
そう言いたいのに。
言えるような私になったのに。
コイツだけは、目の前にするとすべてが無になる。
出来ない。
私、何も、出来ない。
わざとらしく細められた“寂しい”と言わんばかりの目に私はぐっと奥歯をかみ締めた。

