ほんとになにもない。

向こうは……あたしのことなんて元々なんとも思ってないんだから……。


言って、現実を悟ったとたん胸がチクリと痛んだ。



「そっ、か……。俺の思い過ごしならいいんだけど」



やだ。

この想いは封印するって決めたはずなのに。


地面がゆらゆらと揺れて見えるのは、陽炎じゃないことくらいわかってる。


だめ、だめだよ。

今は律くんの前なのに。



「美優、キスしていい?」



直後そう聞かれ、答える間もなく肩に手を置かれ、気付けば律くんの顔が近づいてきた。


……どうしよう。


焦る気持ちが、体にグッと力を入れる。


なんでそんなに警戒してるの。

あたしは、律くんの彼女なんだよ……。


胸の中にあるモヤになんか目をつぶって、あたしはただ律くんを受け入れればいいの。


もうすぐ触れそうな唇に、心の準備をしてぎゅっと目を瞑ったとき。