離れようとする黒崎くんを恨めしく見たとき。
「ダメだな」
黒崎くんはそのまま律くんに近づいた。
ふたりが対峙すれば、ほんの少しだけ律くんが見下げられる形になって、それだけですごい圧がかかったように感じる。
「どうしてだよ。関係ないだろ」
「関係ある」
「……っ、じゃあ……やっぱ美優と黒崎は、」
「そうじゃねえっ、俺に関係があるのは小野美鈴だ!」
「えっ、」
「黒崎くんっ……!」
律くんとあたしの声が重なった。
ダメだよ、それは今言っちゃダメ。
大切なお兄さんに関わることを、あたし達の修羅場のついでに話すなんてダメっ!
「小野美鈴は、亡くなった俺の兄さんの彼女だった。関係なくないだろ」
……ああ。
止める声も虚しくあっさりとカミングアウトしてしまった。
その声はとても低く、深く。
形としてはもう過去形のそれも、ただの始まりにしか過ぎないと思えるほどに。
このまま黒崎くんの復讐の炎が、律くんに向いてしまいそうなほどに。
「……それ……本当か……?」
そう言った直後、険しかった律くんの顔が弾かれたように素に戻った。



