青磁が「あ?」と不機嫌そうな声をあげた。

でも、彼のそういう声音も聞き慣れすぎたせいか、もうなんとも思わない。


「なんだよ、それ。ここまで来てほっぽり出すつもりか」


責めるような口調で言われて、思わずため息が洩れる。


「そんなんじゃない。ただ、……今はみんな、私よりも青磁に頼ってるでしょ。青磁の言うことならみんな聞くんだから、好きなようにやればいいよ」


考えのままを口に出すと、青磁は苛々したように爪の先で床を弾いた。


「ったく、お前、なんでそんなんなの」


挑発されても、やっぱりなんとも思わない。


最近は心が妙に穏やかで、何を言われても腹が立ったりしないし、何があっても悲しくなったりしない。

同じように、楽しくなったり嬉しくなったりすることもない。


凪いだ海のように、平坦で静かな気持ち。


でも、気がついたら指先を傷つける癖だけはなかなか治らなかった。

青磁に見つかると何かと馬鹿にされたりしてうるさそうなので、学校ではあまりやらずに済んでいるけれど。


ぼんやりと眺めているうちにリハーサルは終わり、みんながぞろぞろとステージから降りてくるのを確かめると、私はそっと体育館を出た。