だからと言ってそれを顔に出すと、家族やクラスメイトに無駄な心配をかけてしまうので、なるべく平然を装うようにしている。

それでも沙耶香には気づかれているようだった。


「……なにがあったのか知らないけど、無理はしないでね」


彼女に背中を軽くさすられて、私は小さく頷いた。


「よかったら話聞くから。誰かに話したくなったら、いつでも聞くからね」

「うん……ありがと」


誰かに弱音を吐くのはとても苦手だから、きっと沙耶香にこの思いを打ち明けることはないだろう。

でも、そういうふうに言ってくれる人がいるというだけで、すごく励まされたし心強かった。


チャイムが鳴り、授業が始まる。

教科書を開きながら前を向くと、ぼんやりと外を見ている青磁の姿が目に入った。

彼は今、窓際のいちばん前の席で、対角線上にいる私が黒板のほうを向くと、否が応でも彼を視界に入れることになってしまうのだ。


いつも隣にいたのに、今はこんなに遠い。

たったの数メートルだけれど、果てしない隔たりが私たちの間にはある。


青磁は決して私を見ない。

私がどんなに見つめても、彼があの綺麗な硝子玉の瞳をこちらに向けてくれることはない。


自分が悪いのは分かっていた。

考えなしの言葉と行動で青磁を怒らせた私が悪い。

彼にとっては許せない言葉だったんだ。


でも、それでも。

もう一度、私を見て欲しい。

また、絵を描くところを見せて欲しい。


ただ、隣にいさせて欲しい。


そう願う気持ちは、ごまかしようもなかった。