「付き合ってないよ……」


ぼそぼそと答えると、沙耶香がきょとんとした顔をした。


「あれ、なんか、今までとリアクションが違う」


どきりとした。

鋭い。


どぎまぎしていると、顔を覗きこまれてさらに焦りが生まれる。


「なになにー? 茜ってば、やっぱり青磁のこと」


その続きを言われてしまう前に、さっと手を伸ばして沙耶香の口を覆った。

顔が赤くなっているのを自覚する。

マスクで隠れているから、たぶん人には見えないはずだけれど。


目を丸くしていた沙耶香が、にやりと笑う。


「ふうん、なるほどねえ。そっかそっか、そういうことか」


やけに嬉しそうだ。

私は恥ずかしさに今度は自分の顔を両手で覆う。


「よし、私が茜の相談にのってあげよう」

「え……?」

「ねえ、今日、お昼ごはん一緒に食べよう。空き教室で。そんで、そのこと話そうよ!」


正直なところ、気乗りはしなかった。

ひとと一緒に食事をするのは苦手だし、誰かに自分のことを話すのはもっと苦手だ。

悩みを友達に相談したこともない。


でも、彼女がよかれと思ってそう言ってくれているのは十分に伝わってきた。


私は今までずっと、ひとと深く関わることを避けて、一定の距離を保って、踏み込まれないように予防線を張っていた。

でも、少しは距離を縮めて歩み寄ることも必要だろう。

こういうふうに思えるようになったのは、確かに青磁のおかげだ。


「……うん。ありがと、よろしく」


微笑んでそう答えると、沙耶香が少し意外そうな表情をしてから嬉しそうに笑った。