終礼の終わりの挨拶と同時に、私は青磁のほうへ顔を向けた。

彼は一冊も教科書が入っていなさそうなぺらぺらの鞄を肩にかけ、出口のドアへ向かおうとしている。


「青磁、ちょっといい?」


自分を奮い立たせて笑顔で声をかけると、案の定、青磁は嫌そうな顔で「なんだよ」と振り向いた。


私だって、大嫌いなあんたなんかに声かけるの嫌だよ。

でも、クラスのために仕方なくやってるの。


内心で毒づきながらも、笑顔は崩さない。


「帰りがけにごめんね。あの、ちょっと一言だけ、いい?」


青磁は険しい表情のまま私をじっと見つめ返す。

居心地の悪さに視線を逸らしたくてたまらなくなったけれど、なんとか我慢した。


「さっきの役決めのときね……。王子役は他の子がやってくれることになったけど、あの態度はちょっと、みんなの空気が悪くなるっていうか……だから、なんていうか、もう少しクラスのことに協力的になってくれたら嬉しいんだけど」


下手に出たつもりだった。

クラスの出し物のためなんだから協力するのは当然でしょう、と思っていたけれど、顔には出さなかった。


それなのに、青磁はやっぱり苦虫でも噛んだような表情だった。


「はあ? みんな? 空気? じゃあなんだよ、お前はあれか、みんなが『お前死ね』って空気出したら死ぬのか」


小学生みたいな屁理屈に、私は舌打ちしたくなる。

どうして分かってくれないの? と怒鳴ってやりたい。


もちろんやらないけど。