彼女の部屋は六畳一間の古いアパート。中は最低限の家具しか無く、だけど清潔に暮らしているみたいだった。生活感はあったけど、きちんと整理されていた。


彼女はその狭い六畳の中に、僕の居場所を作ってくれた。


「私は華(はな)っていうの。これからよろしくね」


彼女はそう名乗ったが、僕の名前は聞かなかった。華にとって僕を連れてきた事は一時の気まぐれで、知る必要も無いと思ったのかもしれない。そんなふうに考えてしまうほど、当時の僕は世の中を斜めから見ていた。





しばらくは、僕も華も幸せに暮らしていた。


華は不動産会社に勤めていた。勤務時間はわりときっちり決まっているらしく、同じ時間に出勤し、同じ時間に帰宅する。僕は部屋で彼女の帰りを毎日ぼんやりと待っていた。


帰宅すると華は、僕にいろいろと話し掛けてくれた。会社の愚痴から友達の恋愛事情。時には特売の卵を買いそびれた事まで。僕はそれを聞いてあげる事しか出来なかったが、彼女はそれで満足そうだった。


女性の話には落ちも無く意見も必要ない、というのを誰かが話していたが、どうやらそれは本当らしい。