次から次へと落ちてくるしずくをそのままにするかわりに、こみ上がってくる嗚咽だけはなるだけ抑えた。
こんな住宅街で、すすり泣く女の声が聞こえてきたとなると、新たな怪談話がこの街に誕生してしまうかもしれないし。
ふやけた頭の片隅で、どこか冷えきった別の自分がしょうもないことを考える。
ああ、鞄を持たずに出てきたせいで、ティラちゃんがいないや。
こんなふうにひとりで泣いているとき、どうしても止まらないときは、いつもティラちゃんを両手に抱きしめていると、ほんの少しだけ気持ちが落ち着いてくるのに。
『たぶん、そいつも、おまえのこと好きだったよ』
青いティラノサウルスを思い出したついでに、根拠のないことを言っていじわるに笑った先輩のことも、なぜか心に浮かべてしまった。
おもいきり泣いているはずなのに、その気の抜けたせりふのせいで、なんだか笑えてきてしまう。
ティラちゃんに会いたい。
それから、プリンが食べたい。
できれば、バイクのうしろに乗って、爽快に風をきりたい。
祈りが神様に通じる奇跡がもしあるとするならば、わたしは今夜、一生分のそういう運を使い果たしたのだろう。
唐突に始まった、お尻のあたりに感じる振動が、誰かからの着信を告げていた。
家族のうちの誰かだったらいやだな、と思いつつ、無視し続けて大きな事態になるのも面倒なので、仕方なくスマホをポケットから抜きとる。
そうして、液晶画面を見たとたん、泣くのも忘れて目を見張った。
“公衆電話”
ほの暗い、ひっそりとした夜の公園で、ひとりぼっち。
この状況でこんなことが起これば、陳腐な怪談を思い浮かべてしまう人も少なくないかもしれない。
でも、なんとなく、この薄っぺらい機械のむこうで誰がわたしを待ってくれているのか、なんの根拠もないのに、なんの保証もないのに、わたしはもう、じゅうぶん知っている気がした。



