「ひとりだけ手がかからなくて、わがままも言わないで、なにをするにも、可もなく、不可もなく、ちょうどいいところにいて、問題も起こさないし、新しいものも欲しがらないし、兄のことを尊敬して、妹のことをかわいがって、なるべくお父さんとお母さんの、お兄ちゃんと侑月の迷惑にならないようにって、そういうふうにしてきたわたしは、ばかみたいだね」
絶対的に言わなくてもいいことだった。
死んでも、言いたくないことだった。
ああ、本当に最悪だな。このまま消滅してしまいたい。
わたしなんかはこんなことを言えるような立場じゃない。
こんなことを言ってもいいほど、なにか特別なものを持っている人間じゃない。
責められるのも、なだめられるのも、なじられるのも、優しくされるのも、なにをされても、いまは耐えられそうになかった。
スリッパがフローリングを蹴ったのは本能からくる防衛反応だ。
気づけば夜の闇の下に飛びだしていた。
ださい部屋着を身にまとっていることも、頭のてっぺんに不相応なウサギをくっつけていることも、ぜんぶ忘れたまま、あてもなく近所を歩いた。
足先にひっついたサボがカコカコとまぬけな音を生みだしている。
それを聞いているうち、だんだん冷静になってくる。
夜がもたらす冷えこみの作用で、沸騰していた脳ミソが徐々に冷めはじめる。
たいして歩きもしていないのにどっと疲れたころ、ちょうど見つけた、人気のない、こぢんまりとした公園のブランコに腰かけて休憩した。
ほんのり、湿った感じのにおいがする。もうすぐ雨が降りはじめるのかもしれない。
傘なんか持たずに飛びだしてきたので、そうなったら本当に最低だな。
「あーあ。ほんと、ばっかみたい……」
ほとぼりが冷めたら、あと少しだけ夜風にあてられたら、家に帰ろう。
どんな顔をすればいいのかもわからないけど、悪いのはわたしで、謝らないといけないのもわたしだから、全員へ伝える分のゴメンを用意していこう。
――あと少しだけ、ここで、泣いたら。



