なつかしいクマさんを最後に装着しながら、心のなかで、ごめんね、とつぶやく。
それを知ってか知らずか、妹はひとつにまとまった黒髪を軽快に揺らしながら、満面の笑みでこちらをふり向いたのだった。
「お姉ちゃん、ありがとう! おそろいだあ、うれしいな」
「どういたしまして。あとでいっしょにお兄ちゃんに自慢しよっか」
「うんっ」
何年ぶりかのおそろい。かわいい妹とそれができて、わたしも本当にうれしい。
そう思ってうなずいたところで、ちょうどお兄ちゃんが帰ってきた音がした。
だけど、おかしい。
金曜はたしか塾の授業が遅くまであるはずで、夕食も家族といっしょに食べることなんかほとんどないのに。
「あれ、おかえり。志月? 早いね、どうしたの」
同じ疑問を抱いていたらしいお母さんが率直に訊ねる。
「うん、ただいま、あのさ、俺、
――さっき、塾やめてきたから」
え、とつぶやいたのはわたしだけでなく、妹も、父も、母も、おかしなほど全員同じタイミングだった。
「……やめてきた、って」
停滞したままの空気をなんとか動かしたのはお母さんだ。
それでもお兄ちゃんは、一瞬にして凍りついた空間のなかでただひとりあっけらかんとしながら、「もう必要ないかなと思って」と答えたのだった。
「俺、前も言ったけどさ、卒業したら絵の専門学校行こうと思ってて。だから大学には進まないし、それなら塾代、もったいないじゃん」
それを聞いたお父さんが、飲んでいた缶ビールをテーブルの上に置いたのを、視界の端がとらえた。
あ、喧嘩になるかも――
そう咄嗟に、けれど冷静に頭で判断しながら、心はまったく冷静になれていないことなら、たぶん自覚していた。



