あ、このウサギのやつ、小さいころすごくお気に入りだったな。
さすがにいまはもう年齢的にキビシイけど、幼稚園時代はほとんど毎日、こればかりを選んでいた気がする。
「お姉ちゃん、これにする?」
年上ばかりに囲まれて育ったからか、侑月は人の心を敏感に察するのが本当に得意だ。
迷わずそれを持ち上げ、こちらに差しだしてきた妹には、きっと一生勝てないだろうなと思った。
「もうイイトシなのにこんなの着けれないよ」
「家にいるだけだからいいじゃん。侑月はクマのほうにするから!」
そう言われてしまったら仕方ない。
なにより侑月は、こう!と決めたら譲らないコなので、わたしがなにを言ってもおそらく無意味だろう。
ウサギのヘアゴムを頭のてっぺんに乗せながら、ソファで妹の細く柔らかな髪を結わえていたら、お母さんとお父さんが立て続けに帰ってきた。
「あら、侑月。いいね、佳月とおそろいにしてもらってるの?」
夕飯の食材をキッチンで仕分けしつつ、お母さんがはずむように言う。
「侑月は昔からなんでも佳月の真似をしたがってたもんなあ」
めずらしく早めの帰宅だったからか、いそいそと冷蔵庫から缶ビールを取りだしたお父さんが、気分よさげにそう続けた。
「クマさんの髪飾りもいいねえ」
「こうして見てると侑月が幼稚園だったころのことを思い出すよ」
――あ、と。
絶対に蘇らなくてよかった記憶が、コポコポと、湧き水のように、静かに心のなかでぶり返しはじめる。
どんなに無視しようとしても、もうどうにも、できなかった。



