「……じゃあ、きょうこそは、杏仁豆腐の代金は、わたしが払いますので」
「いいよ、べつに」
「ダメです」
「なんだよ?」
「だって、新しいバイク、買うんでしょう」
言いながら財布を出し、ちょうどあった500円玉を選ぶと、先輩の大きな手のひらに押しつけた。
「高いカンパはできないですけど、数百円くらいだったらわたしも貢献できるので、その分だけ、学校に……来て、ほしいです」
これ以上、おかしな噂話が広まらないために。
休んでいるときの分のノートをとってくれている友達の手を、煩わせないために。
学校のなかで、水崎先輩に会う時間を、増やすために。
「かっこいいこと言うじゃん」
こっちは恥を忍んでまじめにしゃべったというのに、先輩は茶化すように笑った。
「ありがとうな」
あしたは学校に来ますか。
厨房に戻っていく広い背中に、心のなかだけで訊ねた。
どうしても口に出せなかったのは、行くと言われても、行かないと言われても、それがどうしたのだと、頭の片隅にいるもうひとりの自分が、うるさかったせい。



