「おまえも書いといて」
「え?」
「番号。それの」
手のひらに戻ってきた機械を指さされる。
フデバコからボールペンを取りだし、11桁の数字の羅列を素直に書きつらねたのは、こっちだけが連絡先を知っているのはフェアじゃないと思ったからで。
「俺も、なんかあったら連絡する」
なんか。って、なんだろう。
とても働きやすそうな黒のチノパン、そのお尻のポケットのなかへ、わたしの電話番号が無造作に隠されていくのをぼんやり眺めながら、そんなことを考えた。
「あと30分で上がりだから、ちょっと待ってろ。送ってく」
あまりにぼんやりしすぎて、勢いでうなずきそうになったのを、すんでのところで留まった。
「い、いやいや」
「油くせえ服からは着替えるから安心しろよ」
「そういうことじゃなく、そんな、突然来てしまったのはこちらなので、そういうわけにも」
「は? なに、さっきまで生意気なことばっかほざいてたくせに、急にしおらしくなってんなよ」
生意気なことばかりをほざいていた後輩に対し、先輩は怒っているふうではなく、おかしそうに、軽快に笑った。



