アイ・ラブ・ユーの先で



「俺に連絡したくなるんだろ?」


本当に、人のこと、からかうのが趣味なの。

そう文句をふっかけたいはずなのに、素直に電話帳のアプリを起ち上げてしまうのは、どうしてだろう。


スマホが再び先輩の手に収まった。どうにも慣れない手つきで一生懸命なにかポチポチと入力しているのを、息をひそめて見守る。

やがて、合計で5つもの連絡先が、普段よっぽど使うことのない電話帳に追加されたのだった。


「え……こんなに?」

「これと、これと、これがバイト先。で、これが家。あと、こいつが、佐久間澄己……きょうおまえに絡みにいった、あのフニャフニャした男のケータイな」


どこかにかければ必ず繋がるはずだと、先輩は簡単に言った。


「というか、3つも掛け持ちしてるんですか、バイト」

「さっきも言っただろ。1個じゃ追いつかないんだよ」


ここに到着して、中華料理屋だとわかったとき、なんだ、ふつうのバイトじゃん、ぜんぜんやばくないじゃん、と安心したけれど。

もしや、このなかに、結桜やみんなが噂している“やばい”バイトも含まれているとか?


「ちなみにこれがここの中華料理屋。こっちがガソリンスタンド。で、これが、バー」

「え……バー? バーって、あの、バーですか? お酒飲む……」

「そう。酒類のあるとこがなんだかんだでいちばん手っ取り早く稼げるからな」

「高校生ってバーで働けるものなんですか?」

「そんなもん詐称してるに決まってんだろうが」


だろうが、と言われても、あまりにも程遠い世界なのでついていけない。

やっぱりとんでもない人かも、と身構えたところで、テーブルの隅に常備してある紙ナプキンを、先輩がわたしの前に差しだしたのだった。