やっぱりアポなしで突撃したのはマズかったかもしれない。
怒らせてしまったかも。
「は? いちいちうるせえんだよ、おまえ」
吐き捨てるみたいに言った直後、容赦のないガチャ切り。
その迫力にびっくりして、動けないでいると、先輩は今度はわたしのほうへドカドカやって来た。
「佳月」
「は、はいっ」
「ちょっと、そこらへん座っとけ」
「はいっ」
……はい?
「あの、いえ、渡すもの渡したらすぐに帰りますので……」
「いいから座っとけ」
どうして毎度こうも強引なのか。
広い店内は空いていたけれど、居心地が悪いのでいちばん端っこの席を選んで座った。
すると、すぐになにかが目の前に差しだされた。
「さすがにプリンはないから、きょうはこれで我慢しろよ」
真っ白の杏仁豆腐。ツヤツヤですごくおいしそう!
「こんなとこまで来させて悪いな」
「いえ、あの……わたしのほうこそ、急に来たりして、すみませんでした」
水崎先輩は先日と同様、当然のようにわたしの目の前に腰かけると、指先でずい、と透明な容器をこちらへ近づけてくれた。
「食ってけよ」
黒いTシャツはよく見たら油まみれだった。
店全体を覆っている油のにおいが、水崎先輩からもほんのり漂ってくる。



