「……これは?」
「昂弥が来なかったとき用のノート。あいつが学校休んだ日はかわりにおれが板書してんだよね。ほんと、超優しいやつだなあと自分で思う」
最後の自画自賛の言葉に突っこむことさえできなかったのは、それよりもずっと引っかかることを、この人が言ったから。
水崎先輩、やっぱり、学校に来ないことが多いんだ。
そして、それを、こんなふうに友達からも容認されてしまっているんだ。
どうして?
それも、あの“噂”と、なにか関係しているのかな。
「気になる?」
白い薄手のカーディガンがよく似合う、端正な顔立ちが、試すようにわたしの顔を覗きこんでいた。
「昂弥がどうして学校を休みがちなのか」
「べつに、そんな……ことは」
ないです、と言いかけて、視線を上げて目が合ったら、そんな虚勢は張れなくなってしまった。
「……あなたは、なにか、知ってるんですか?」
「そりゃあ、多少はね。友達だからさ」
目を細めて笑うと、ノートとはまた別のメモ用紙をぺらりと渡された。
どこかの住所が書いてある。それと、なにかの名称も。
「それ、昂弥のバイト先ね。おつかい、頼まれてくれるよね?」
無理ですと突き返すことができなかったのは、これからデートなのだと言われてしまったからでも、なんの予定がなくて暇だったからでも、先輩からの言いつけを断りづらかったわけでもない。
ただ、わたしが、行きたいと思ってしまっただけ。
どこでなにをしているのか、いったいなにが本当なのか、水崎先輩はどういう人なのか、知りたいと思っている気持ちを、どうしても抑えることができなかっただけだ。



