アイ・ラブ・ユーの先で

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水崎先輩とつきあっているというありもしない疑惑、けっきょく結桜にはシッカリ否定できたものの、広まってしまった全員に誤解を解いてまわるのはあまり現実的じゃない。


それでも、人の噂も75日、というし。

すぐに火消しもできるかな、それまで先輩と必要以上に関わらないほうがいいよな、なんて息をひそめていたところを、またも捕まえられてしまったのだった。


それも、これまた別の人物に。


「お。阿部佳月ちゃん、発見」


上履きからローファーに替え、さあ帰ろう、と一歩を踏みだしたその瞬間。
ぜんぜん覚えのない声に背後からフルネームを呼ばれて、さすがに縮みあがってしまった。


思わず反射でふり向くと、すらりと背の高い、甘ったるい感じの微笑みを浮かべた男子生徒と目が合った。

どうやらいまわたしを呼びとめたのはこの人で間違いないらしい。


いや、まったく知らない人だと思うのだけど。


「急に呼びとめてごめんね。おれ、3年の佐久間(サクマ)っていうんだけど」


警戒心を解くように、彼は丁寧に自己紹介をしたあとで、長い脚を進めてわたしに近づいた。


微笑みだけじゃなく、声やしゃべり方も甘ったるいにおいがする。

まぶしいほどに整った顔の真ん中で、とろんとこちらを見つめてくるたれ目は、女の子の扱いをよく心得ているように見えた。


こんな人が、わたしに、いったいなんの用があるというのだろう。