中学時代は比較されてウンザリもしていたけど、それと同じくらい、“阿部志月の妹”という立場を羨ましがられることも多かった。
あんなに優秀でかっこいいお兄ちゃんがいていいね、という言葉は、やっぱり純粋にうれしかったし、すごく誇らしかった。
そんな自慢のお兄ちゃんが、イラストレーター、かあ。
きっといまお父さんとお母さんが抱いているはずの複雑な気持ち、わたしにも、まったくわからないわけではない。
「俺、どうしても諦めたくないと思ってる。安定だけを求めるならあとからいくらでもできるし。まず、自分の心がやりたいと感じてること、素直に挑戦してみたいんだよ」
だけど、どう足掻いても一度きりの人生。
たくさんの才能があって、その分だけの選択肢も持っているお兄ちゃんの気持ちだって、理解できないわけでもない。
もしかしたらこれは長期戦になるかもな、とげんなりした。
お父さんにとっても、お母さんにとっても、そしてお兄ちゃんにとっても、納得のいく結論が出ればいいけど。
そんなふうに思いながらベッドに潜りこもうとしたところで、トントンと2回ノックされたドアが遠慮がちに開いたのだった。
「お姉ちゃん、きょう、いっしょに寝てもいい?」
ひょっこり現れたのは侑月だった。



