「昂弥、女の子乗せるんだから、いつも以上に安全運転でね」
「俺がセーフティじゃなかったことなんか一度もねえだろ」
「おまえね、よく言うよ、ほんと……」
入学式のときはたぶんぜんぜん安全運転じゃなかったです、と告げ口したかったけど、あれは間違いなくわたしのためにスピードを出してくれたはずなので、共犯として黙っておこう。
「ありがとうございましたっ。ごちそうさまでした!」
走り出す手前、ヘルメットの内側で叫んだ。
しっかり届いたのか、お父さんは小さく手上げて、見送ってくれた。
家まで必死に声を張り、うしろからナビをした。
答えてくれる先輩の声は、前を向いていても、風を切っていても、エンジン音に包まれていても、やっぱり明確にわたしの耳まで届いてくるから、本当に不思議だった。
家族の誰と鉢合わせるかもわからないので、なんとなく家の真正面まで送ってもらうのははばかれて、近くのこぢんまりとした公園で降ろしてもらった。
もうすっかり陽は落ちきっている。子どもはひとりもいないとはいえ、小さな遊具のなかの大きなバイクはとても場違いで、おかしいな。
「送ってまでいただいて、本当にありがとうございました」
「俺がつきあわせたんだから、当然」
「でも……」
わたしが泣いていたから、落ち込んでいるふうに見えたから、おいしいものを食べさせて元気を出させようとしてくれたんですよね?
率直にそう訊ねてもこの人はきっとノーと言うだろう。
だから黙っていた。
なんとなく、このまますぐに踵を返して帰る気にもなれない。



