通されたのは、カウンターからいちばん離れた窓際の席だった。
わたしをひとりで座らせたまま、先輩はすぐにどこかへ行ってしまったので、そわそわしてしょうがない。
窓の外を覗けば、ほんのすぐそこに、わたしも2回乗せてもらった黒いのと合わせて、4台ものバイクがずらりと並んでいた。
こうして見るとものすごい迫力だ。
ほかにお客さんはいないようだけど、ぜんぶ、先輩のものかな。
高校生がバイクを4台も所持しているとは思えないけど、本当に“やばい”バイトでもしているのだろうか。
「興味あるかい?」
いきなり声をかけられてはっとした。
ふり返ると、お父さん(なのか定かではないけど、きっとそう)が、飲みものを運んできてくれていた。
「全部ね、僕の趣味だよ」
「えっ、そうなんですか」
「そう、いちばん手前の黒いのだけ、昂弥に譲ったんだけどね」
かすかな柑橘の香りがする。お洒落なグラスのなかで揺れている黄色がかった液体は、おそらくレモンティーだろう。
「あ、すみません……ありがとうございます」
流れ落ちる水滴をじわりと吸っていく、コルク素材のコースターに書かれた文字を、指先でそっとなぞった。
―― Café Side-Stand
「“サイドスタンド”……」
「もともとね、バイク仲間と趣味の交流をするつもりで始めた店なんだ。サイドスタンドってのは、あれ、ここからも見えるかな。停車中に車体を支えておくためのパーツなんだけど」
窓の外へさされた指の先をたどっていく。自転車にもついているようなあのパーツのことだと理解する。
「たまには走るのをひと休みして、コーヒーでも飲もう、って意味を込めたんだけど」
あんまり伝わらないし、ロマンチックすぎていまとなってはちょっとこそばゆい、と。
お父さんがそんなふうにはにかんだところで、先輩が席までやって来たのだった。
右手に、なめらかそうな、濃厚そうな、そう、とってもおいしそうな、プリンをもって。



