「ただいま」
お店の出入り口であろうドアから堂々と入った先輩は、奥のカウンターにいた中年の男性にむかってそう言った。
「おかえり、昂弥」
もしかして、この方が、お父さん、だろうか。
笑ったときの目元が少しだけ似ている。
目尻に刻まれている皺は、先輩がそうしたときのよりずいぶんくっきりしているけれど、先輩もいつか歳を重ねたら、こんなふうな味わい深い笑顔になっていくのかな。
「限定のやつ、余り、まだある?」
先輩が簡単に訊ねた。
「え? あるけど……」
こんなことを言われるのは意外なのか、少し驚いたように答えたお父さんらしき男性が、そこでやっとわたしの存在に気づいたのだった。
「……おや?」
視線をむけられてはじめて焦る。挨拶の言葉なんかひとつも用意していなかった。
「あっ、どうも、あの、すみません、ええと」
「ただの客だよ。なんか飲みもんでも用意してやって」
水崎先輩は笑いもせず、いたってクールに言った。
ただの客、では絶対にないと思うのだけど、じゃあなにかと聞かれても困るので、あえて突っこまないでおくことにする。



