「で、今回はどこに遅刻しそうなわけ」
「……そうだったらこんなところに座りこんでないで走ってます」
「ははっ、そうだったな、おまえって泣きながらでも全力疾走できるやつだった」
ああ、完全にバカにされている。
こうしてからかうために近づいてきたのかと思うと、腹が立ってくる。
「面談だったんだっけ? 泣くほど酷いこと言われたのかよ」
それでも水崎先輩は、今度はバカにしたふうではなく、どちらかというとそっと寄り添うように、そう訊ねた。
不覚にも心がほどけそうになるのを、あわてて固く結び直す。
「もし……そうだったとしても、先輩にだけは言わないですけどね」
「なに、けっこう生意気なこと言うじゃん」
「だって、べつに、わたしって手のかからない、いい子なわけでもないですから」
ほとんど八つ当たりだった。
悪名高い先輩に対して喧嘩を売るようなことを言って、あとから取り返しのつかない事態になったとしても、なんだかいまはもうどうだっていいような気がしていた。
右側から視線を感じる。
とても気になるのをひた隠して、必死の思いで無視をしながら、夕陽が落ちかけている水平線を眺めつづける。
そうして、どれくらいが経ったのだろう。
ほんの数秒だったようにも思うし、数分くらいにも感じられた。
「おまえ、いまから、時間あんの?」
長いような短いような沈黙に、先に言葉を落としこんだのは、先輩のほうだった。



