結局、お母さんが教室の前に姿を現したのは、面談の開始予定時刻から10分を過ぎたころだった。
ひとりの持ち時間が15分なので3分の2も無駄にしたことになる。
廊下で待っているあいだ、担任の魚住先生が気を遣って「別日にしようか?」と提案してくれたけど、それはすでにお母さんのほうから却下されているので丁重に断った。
「本当に、すみません、遅れてしまって……」
「いえいえ、こちらこそ、大変お忙しいところ貴重なお時間を頂戴しまして……」
大人どうしが大人どうしの定型文を言いあっているのを、どこかシラけた気持ちで聞いていた。
その一文ずつを省けば30秒は時間を有効に活用できるのでは、なんて野暮なことは、子どもっぽいので言わないでおくけれど。
学業も生活態度もこれといって問題ナシ。
ざっくり言えばそういった内容の話を、魚住先生がお母さんに伝えた。
問題がないというのは、面白みがないと言われているようで、いいのか、悪いのか、わからなくなる。
「阿部さんは、もしかして、きょうだいに囲まれて過ごしていますか?」
それでも、学校の先生を侮ってはいけないかも、と思ったのは、見事にそう言い当てられたときだ。
「ええ、まあ、実はこの子のふたつ上に兄と、3つ下に妹がおりまして」
「ああ、やっぱりそうなんですね。見ていて、なんとなくそんな気がして。一歩引いたような、なんて言うんですかね、いい意味で、いつも教室を俯瞰しているような、そういう生徒ですからね。“真ん中”ならではの処世術みたいなものを心得ているのかな」



