「あの、先日は、本当にありがとうございました。そして、ごめんなさい、本当に……あの、新入生と間違えたようなことを言ってしまって」
足を止め、半分だけこっちに向けてくれた体にむかって、いっきに伝えた。
「だから言っただろうが」
シメあげられるんじゃ、とか、使い走りに認定されるんじゃ、とか、いろいろ悪い想像をしていたのは、どうやら杞憂に終わったらしい。
おそるおそる顔を上げる。
目が合うなり、にやっと笑われる。
「入学式になんか出るわけねえだろ、って」
そう言われたのと同時に、左手に持っていたはずのレモンティーが重力を失った。
水崎先輩の右手が、四角い紙パックを簡単に奪っていったのだった。
「うわ、おまえ、ストロー噛むなよ、ぺったんこじゃねえかよ、なんだこりゃ」
文句をつけながらもしっかり吸いこんでいる。なにをされているのかいまいちわからず、あっけにとられてしまう。
「じゃあな、阿部佳月チャン。ごちそーさん」
ぽこんと返されたレモンティーは体積の半分以上が消えていた。
それを胃のなかに盗んだ犯人は、悪びれもせず、軽く笑いながら行ってしまったのだった。
ひらひらと振られた手のひらごと、また、まぶたの裏側で、おかしな残像になってしまう。
そんな予感がするのに、小さくなっていくうしろ姿からずっと目を離せないでいるのは、どうしてなんだろう?



